『もしもし……?』


ものすごく不安そうな声が俺の耳の横で聞こえる。

いつも通りの沢村若菜の声、いつも通りのビビりよう。

あいつは何にも変わっちゃいねぇ。

そんな沢村若菜の様子は俺のいたずら心に火を点けた。


「俺、だけど。誰かわかる?」


俺の声、わかるだろ?お前なら。

名前なんて言わなくても。


『……先輩?』


そうだよ。


『元気になったみたいですね?』

「うん、大分ね。」

『よかったです。みんな、心配してましたよ。』


そうやって俺に気づかれないように、自分の気持ちを隠そうとする。

俺もヘタレだけど、お前もヘタレだな、沢村若菜。


「昨日は……ありがとな。」

『いえ、そんな。迷惑じゃなかったなら。』

「おかゆも、おいしかった。」


でも、俺の方がマシみたいだ、電話越しなら素直になれる。


「明日は、学校にも行けそうだから。またな。」

『はいっ!』


嬉しそうな沢村若菜の声が、俺も嬉しかった。