沢村若菜は俺の視線から逃げるようにドギマギしている。

仕方ない、俺が話してやるよ。


「この席、この前まで俺の席だったんだ。」

「そうなんですか。」


沢村若菜の顔が輝く。

わかりやす過ぎる。

もうちょっと喜ばせてやるか。


「俺さ、3年でこの研究室に入ってからずっとこの席だったから、愛着わいちゃって。いつも窓から外ばっかり見てた。研究もしないで。」


いや、ある意味あれは研究かもしれない。

俺の知らない生態の人間を調べるっていう。

それを考えると、何か笑えた。

研究対象、目の前にいるし。


「でもさ、沢村わヵ……ちゃんと勉強しろよ。」


危ねぇ、フルネームで呼びそうになった。

本人は気づいてないみたいだけど。

って言うか、また顔赤くなってるし。


「どうかした?」

「いえ、頑張ります、研究。」


あぁ、俺が名前呼んだから?


「面白いな、お前。」


つい言ってしまったが、嬉しそうにしてるからまぁいいか。