野球少年と彼女と私

「来るんじゃねえ、糞女。じゃあな」


―――‥冷たく言い放つ向井先輩も怖いと思った。


そして向井先輩は教室を後にし、歩きだした。


私が女の先輩に何故か睨まれながらも、それを尻目に向井先輩を追い掛けた。


「向井先輩!」


何故追い掛けてしまったんだろう。
何故声をかけてしまったんだろう。

今日の私、超変だ‥‥‥‥


「なんだよ?」


私に睨みを効かせる向井先輩を気にしながらも、

「野球‥頑張って下さいね!」

「‥‥んなもんやめる」


「‥‥‥‥‥‥え‥?」


「なんだよ?」

「なんだよ?じゃ、ないですよ!だって私‥‥野球帽子かぶってる先輩好きで」

私に意味不明って感じの視線を向ける向井先輩をまたまた気にしながら

「去年駅で手を差し延べて優しく笑ってくれた向井先輩がすごくカッコイイなって思って」



「だから私、向井先輩のあの笑顔を‥もう一度見たいんです。野球してる所も見たいんです」


――――沈黙が流れた。
でも、私は向井先輩から沈黙を破って欲しかった。


―――あの時の、あんたかって言って欲しかった。


けれど

「誰だ?てめぇ」

私の願いは呆気なく裏切られた。