けれども冷たい風に吹かれながら歩くことを思うと、どうしても部屋を出るのをぐずってしまう。ああ、布団のなかは暖かくて気持ちいいな……。
「ちょっと、」
 布団越しに体を揺さぶられた。いつの間にかシオリが戻ってきていたみたいだ。
 ごそごそと布団から顔だけを出す。すると、飛び込んできたのは枕元に置かれたミネラルウォーターと市販の風邪薬、それに湯気を立てるお粥と味噌汁だった。
「私これからバイトなのよ。好きなだけ寝てて構わないから、部屋を出ていくときはポストに鍵、入れておいて。お粥作ったから、食べられそうならそれ食べて」
 一気に話す彼女にあたしはただコクコクと頷く。目の前にぽんと部屋の鍵を置き、じゃ、と一言残してシオリが立ち上がったものだから、あたしはようやく慌てることができた。
「え、え? ここにいていいの?」
「具合悪いんでしょ?」
「そうだけど、でも……あたしがなにか泥棒したらどうするの?」
 今更な気がするが、あたしたちは昨日会ったばかりの間柄だ。そんな人間をこうも簡単に信用するシオリに不安を覚えた。
 けれどもシオリはあたしの言葉を聞いて、一瞬の間のあと大声で笑い出した。