あたしはぼんやりと黒板を眺める。見た覚えのない英文の羅列。つい十数分前まで聞いていたはずの授業の内容をまるで覚えていない。
 英語の授業だけではない。昨日のあの瞬間から、あたしの頭は陽くんのことだけでキャパシティオーバーだ。
「運命だと思ったの」
 ポツリと唇から溢れ落ちる言葉。芹香が明るく染まった長い髪を掻き上げる。
「中3の運動会の打ち上げで同じテーブルになって盛り上がって、そこでアドレス交換したの。陽くんのことは前からカッコイイなって思ってて、」
「そのうち毎日メールする仲になって、クリスマスイブに遊園地でデートすることになったんでしょ」
 もう10回は聞いたよ。そう付け足しつつも、芹香は笑って先を促してくれる。姉御肌で面倒見の良い彼女は、中学時代からずっと世話を焼いてくれる良い友人だ。