「これで二十両か。ちょろいな」

夥しい血に染まった周囲を見回し、男は黒コートの肩をすくめた。


「俺が九人で、お前が十人か」


山道を埋め尽くしている山賊の死体は、

首を切り落とされたものが十。
胴を断たれたものが九。


「さすが、『時間を抜け出せる』ってのは便利だな」

女が手にした小太刀とは対照的に血の一滴すら見当たらない大太刀を、男は再び朱塗りの鞘に納めた。

バサバサと葉擦れの音を立て、山賊たちの周囲にあった大木までが何本か
滑らかな切り口を見せてドウと倒れる。


「お前はいつも攻撃が大雑把すぎだ。『空間を斬る』ならもっと正確に狙え」

それを見ながら女が澄ました調子で言って、素手で引き抜いていた山賊の舌を投げ捨てた。


「うへえ……おっかねえ」と、男が端正な顔を引きつらせた。


「さっきまでは、犯されかけてイイ感じでヨガってたクセによ」

「何がだ」

女は眉をひそめた。

「アレは、面白そうだったから、貴様がいつも宿に連れ込んでる女の声を真似てみただけだ。

毎晩隣の部屋から聞こえてくれば、いい加減真似くらいできるようになるわボケ」

彼女は刀に付着した血と脂とを懐紙で丁寧に拭い、鞘に納める。

「フフン、男というのは悲しいな。
あんな声を出してやるだけで、お前が忍び寄る気配にも気づかないほど舞い上がれるとはね」


可憐な外見に似合わない、にべもない態度で言い放って、
それから彼女は不快そうに、白魚のような指で、長い真っ直ぐな黒髪を掻き上げた。