山ン本というのは、別の魔王『山本五郎左衛門』のことだろうか。

「勝負?」

タイホウが聞き返すと、

「そうそう。どちらがより多くの人間を怖がらせることができるか、という勝負だ」

そんな答えが返ってきた。

「近隣諸国から、これだけたくさんの人間が怯えて十万の兵をさし向けたのだ。
こりゃあ、俺がカナリ優位になったな。山ン本の奴め、どうするか……見モノよな」

神野はさも楽しそうに語った。

「しかし妖怪に対する恐れが全くなかったタイホウと、俺に平然と刀を向けてきたカミナル、貴様らは気に入った」

神野がそう言って、タイホウはジンヤが自分にしてきた質問の真意を知った。

「というわけで、折った刀の詫びにこれをやろう」

と言って、魔王神野悪五郎は二人にどこからともなく出した小太刀と大太刀を渡し、

「我らの友情の証というところだ。
ああ、それと何か困ったことがあれば俺の名を呼ぶがいい。ヒマだったら助けになってやるよ」

一方的にそんな言葉を放って──


どう、と一陣の風が吹いてタイホウとカミナルが一瞬目を瞑り、次に開いた時には、

その場から、何とも捕らえ所のない飄々とした魔物の姿は綺麗サッパリ消えていた。