電光石火×一騎当千

そのハマグリを兵が槍で突き殺した途端、

そびえ立っていた城も、空を覆っていたカラス天狗の群も、地を走る大蛇、山童、鬼の集団も消え──

全ては幻だったかの如く、辺りには荒涼とした葦原の湿地帯が広がるばかりとなった。


「これは、世に聞く『蜃』という化け物ではないか?」


皆、狐につままれたように顔を見合わせ、誰ともなくそんなことを言い出した。


「『蜃』という貝は、口から蜃気楼を吐いて人を惑わすと言うぞ」


初めから魔王などどこにもいなかったのか。
それでは自分たちはいったい何と戦っていたのか。

実際に、戦では妖怪勢にやられて死人だって出ているのにどういうことだと──

慌てふためきながら調べてみれば、妖怪に殺されたはずの死体はどれも味方の槍や刀に貫かれており──


青くなったのは指揮を執っていた上の者たちである。


魔王とは何の関係もない化け物が吐いていた幻に惑わされて、存在しない敵相手にこれまで同士討ちをしていたなどヤマトの大陸中の笑い種だ。

こうしてこのことは口外無用の箝口令が敷かれ、

本来討ちとって持ち帰るべき首の存在しない神野悪五郎に関しては、表向きは「魔王は消えた」ということにされたのだった。



この大戦は何だったのだろうかと、誰もが夢を見ていたような顔で引き上げてゆく中で、

自分こそが魔王の首をとってカミナルを見返してやろうと考えていたタイホウは完全に肩透かしを食らった気分になり、

行き場のないモヤモヤを抱えたままのタイホウは、他の兵たちと共に引き上げようとしていたカミナルを引き留めて決闘を申し込むという行動に出た。