「須具利様、お待ち致しておりました。」
ホテルに入るとすぐ、黒いスーツをビシッと着た男性が慌てて駆け寄り声をかけてきた。
…………。
左胸のネームプレートには“支配人”の文字。
「「ゲゲッ!?」」
─か、顔パス?!
支配人さんは、額の汗をハンカチで拭いながら、母さんと話しをしている。
「…にはいつもお世話になっております。……はいつまでも相変わらず、お美しいですね。……はごきげんいかがですか?……当ホテルをご利用いただき、光栄でございます。そちらの方が、隆様でございますね。……そちらの方は?」
小首を傾げてあたしを見る支配人さん。
「この子は、末っ子の檸檬。」
「さようでございましたか。……失礼を致しました。檸檬様。」
支配人さんはあたしに申し訳なさそうにニッコリ微笑んだ。
「は、初めまして。須具利檸檬です。」
「初めまして……お可愛らしい方ですね。本当に“毬(マリ)”様の小さい頃に良く似ていらっしゃいます。」
(“毬”とは、母さんの名前だ、ちなみに“聖母マリア”から二文字貰ったらしい……親の気持ち子知らず……成長した母さんは聖母ならぬ─“鬼子母神”だ。)


