『麗子ちゃんは笑ってるのが
一番だって…。』


麗子はトニーの言葉を
思い出していた。

冷水で2~3度、顔をすすぎ
タオルで軽く押さえて拭い、
ドレッサーの前に向かうと
鏡に向かって無理矢理ニッと
笑ってみた。

引き吊った笑顔に益々
悲しくなり、麗子は居ても
立っても居られなくなって
しまった。

《こんな顔で行ったら、
また心配かけちゃうよね…》


泣くのはやめよう。


麗子はコットンディスペンサー
からコットンを取り出すと
化粧水をそれに染み込ませ、
瞳を閉じると、優しく顔に
滑らせて行った。

チーフの温かな手を想い浮かべ
ながら、次は乳液をなじませ、

チーフの手順通りベース、
ファンデーション、と自分の
顔にメイクをして行った。


呪文の様に『メイクは魔法』と
呟きながら…


最後にルージュを引いた頃には
不思議と気持ちも落ち着いて
いた。


もう一度、鏡に向かって
ニッと笑ってみた。


チーフのメイクには及ばないが
いつもの自分に近付けた
気がした。


トニーに逢いたい。


掛ける言葉も無いけれど
兎に角、トニーに逢いたい。


麗子は、帰って来た時と
同じそのままの姿で再び
部屋を出た。