正直、我ながら酷い事を
言ったと思う。

しかし、慎也の嫁気取りだの
キープだのの言葉は格闘技で
急所を蹴るに等しいほど
卑怯で残酷な言葉だった。


純粋で真っ直ぐな恋愛しか
出来ない麗子の心はポッキリと
折れた。


『2年近くもしょ~もナイ
時間。』決して本心ではない
売り言葉に買い言葉で
言ってしまった自分自身の
言葉にも傷付いた。


麗子は土石流の如く溢れ出す
涙と、指先にこびり付いた
ダージリンティーの
シフォンケーキの甘い香りに
むせながらキッチンへ駆け込み

蛇口を捻ると、身を切る様な
冷たさの流水に手を晒した。


『もう‥ヤダ‥』


泣きながら呟き、石鹸で
ゴシゴシと指先に付いた
ケーキの汚れを落として
いった。


指先から手、全体に伝わる
水のジンジンとする冷たい
痛み‥


悲鳴を挙げたくなるほどの
冷たい痛みに両手をギュッと
握り締め、こうしていれば
心の痛みも少しは麻痺して
忘れられそうな気がして、
暫しただじっとそうしていた。


不意にトニーの面影が
頭に横切った。


それは、今一番傍に居て
欲しいと心から思う人の顔
であった。