仕方なく家路に就いた麗子は
アパートの階段を重い足取りで
上がり、部屋の鍵を開け、
玄関で鍵をロックすると
誰も居ない静まり返った部屋に
上がろうとしていた。


ガチャ!
ガチャガチャガチャガチャ!


不意に背後でドアノブを回す
音にヒィ~!と飛び上がり、
麗子は息を潜めていた。


ガチャ…
『麗子ぉ、居るんだろ?
開けてくれよ…。
今、部屋に入るとこ
見てたぞ。
やっぱ、お前が一番だって
解ったんだ。
ここ、開けてくれよぉ。』


し、慎也?


ドアスコープから外を覗くと
真っ暗で何も見えない。

たぶんドアに密着しているの
だろう…。


『部屋に入るとこ見てたぞ』
って…ずっと居たってこと?


今となってはピリオドの
彼方にツーランホームランで
カッ飛ばした男!


しかも…自ら飛んで行ったのは

オマエじゃないか!


麗子の背筋にゾクっと悪寒が
走った。


あームリムリムリムリ


恐る恐る定番の問い掛けを
声にしてみた。


『なっ、何しに来たのよっ!』


『ごめん!俺が悪かった!
だからココ、開けてくれよぉ』


いきなりお決まりの情けない
応答が返って来た事に益々、
気持ちが萎えて行く。


『今更、ナニよっ!
アンタなんかもうアタシの
人生の中には居ないのよ!
解ったら、もう帰って!』