チーフのヘア・メイク
スタジオの目前まで来ると
窓からチーフの姿が
見えて来た。


丸眼鏡でニコニコしながら
手をヒラヒラさせて
接客してる。


今日も派手なアメリカ国旗の
ウエスタンシャツを着ている。


あんなふうにしてるけど、
普段の彼はあんなじゃない。

チーフの素顔を自分だけが
知っていると言う優越感が
特別な事に思えて麗子は
嬉しくて仕方が無い。


《そうだ!チーフにこの髪
何とかしてもらおう!》


ブローの苦手な麗子は
エクステでロングにしたのは
良いが、自分でセットが
上手く出来ない。

そんな訳で変装を兼ねて
ニット帽を被っていたのだ。


予約無しの突撃訪問で
接客中のチーフを眺めて
いられる時間も増えるし、
待つ事が寧ろ嬉しい。

そうだ!
この10万円で暫くセットに
通っちゃおう♪


麗子はまるでホスト通いの
マダムにも似た心境に
なっている。


麗子の心には既に1%の
慎也も居なかった。


足取りも軽く麗子は店の
白いドアを開けた。