起き上がると、和風な雰囲気が広がっていた。
襖に硬い枕、被された唐衣、電気はなく立てられた蝋燭。
何が何だかよく分からない。
「な、何なの? まるで平安時代のような造りじゃない」
突然の異変に律は戸惑う。
辺りをもう一度よく見渡すと、鏡を見つけた。近寄って、伏せられてある鏡を手に取って覗き込む。
真実を映し出す鏡は、信じられない姿を映し出した。
「な…何で?! 私に似てるけど私じゃない! 大体、私こんなに髪長くない!」
「姫? どうかなされたのですか?」
「……え、姫?」
「入りますよ」
襖が開き、一人の男性が入って来た。これまた時代劇で見るような格好──直衣だった。頭上にある烏帽子が妙に似合っている。
「さ、相模?! どうしたの、その格好!」
「……姫? 相模とは、どなた様の事です?」
「え?」
「突然倒れられたかと思えば」
「相模…じゃない。相模はそんな丁寧な言葉は使えない」
ご尤も。使わないんじゃない、使えないのだ。
「変な事訊きますが……今、何年ですか」
「1036年ですよ」
「……冗談、ですよね?」
「いえ」
(へ……へ……平安時代ぃ?! 嘘でしょおぉぉっ!!)
「ん……」
律は5分もしない内に目を覚ました。ほっと息を吐く。
空はおぶっている律に向かって尋ねる。
「大丈夫か? 急に倒れるから、めちゃくちゃビビったぞ」
「蒼…?」
律の口から発された言葉に、空は足を止める。
(今、何つった?“蒼”?)
おぶっていた律を降ろす。
「真空?」
「え?……あら? 蒼に似ているけれど、蒼ではないわ。失礼致しました」
律はぺこりと頭を下げる。
「ところで、ここはどこでしょう?」
「……おい、ちょっと待て。変な冗談やめろよ、真空」
「冗談? 私は至って正気ですが…。それに私は、真空という名ではありません。私の名は、天野奏(アマノ カナ)です」
「……は?」


