空 × 空 -secret-

「本当にごめん! いるなんて思わなくて」

「ったく」

「大丈夫? 腫れてない?」


 額に触れようとする律の手を掴み、拒む空。


「いいから。……早く行くぞ。遅刻」

「う、うん」


 二人立ち上がり、門を通って表へ出る。

 空は痛そうに額を擦っている。


「本当に大丈夫?」


 遠慮がちに尋ねる。


「大丈夫じゃねぇよ、ったく。何だよ、朝からケンカでもしたのか?」

「え……あ、お母さんとちょっとね」


 まさか空との交際が原因だと言えるはずもない。


「……平気か?」

「うん、大丈夫。平気、平気」

「つらかったら言えよ。相談に乗るくらいしか出来ねぇけど」

「ありがと。それだけで充分」

「そか」

「うん。……ところで。珍しいね、相模が迎えに来てくれるなんて」

「いや、変な夢見てさ」

「変な夢?」

「ああ。真っ暗な闇の中をさ、誰かの名前呼びながら彷徨ってんだ。やっと見つけたと思ったら……そいつは血だらけで横たわってた」

「………」

「それでちょっとな」

「似てる。私もね、真っ暗な闇の中を彷徨ってて。そしたら、女の人が泣いてて。“蒼”って──」


 キィーンッ。


「っ? なに…!」

「真空?」


 急な耳鳴りが律を襲う。頭が割れそうなくらい、激しい耳なりと突然の頭痛。


「や…、痛いっ。さ…がみっ」

「真空?! おい、真空!!」


 気を失い、律は空の腕の中に倒れ込む。


「おい、真空?!」


 薄れゆく意識の中、律は空の声を聴いた。自分を心配してくれる声。

 起きなければ。起きて安心させなければ。

 そう思いはするものの、一度閉じた瞼は思ったより重く、顔を見る事が出来なかった。