「いえ。現に前巫女が男性を愛した時、街は大雨が続き、不作になりつつありました。が、前巫女は自らの命と引き換えにこの街を救ったのです」
「………」
「旦那様は災いを恐れているのです。ですから、姫が年頃になられた今、私と姫を離そうとなさっている」
「そんな!」
話し終えた蒼はとてもつらそうだった。
愛する人と離れなければならない苦しみ。蒼は必死でそれに耐えている。
律にはそれがとても痛々しくてならなかった。
日が暮れ、夜がやって来た。
部屋は薄暗い。蝋燭一つだけの灯り。
蒼は別室で食事を取ると言い、律は部屋で一人。
「姫様、お食事でございます」
女性の声に一瞬身構えたが、すぐに応えて女性が入って来るのを待った。
襖が開き、一人の女性が食事を持って入って来た。そして律の前に置く。
まず律の目が行ったのは、ご飯や魚などではなかった。
膳の片隅にある、白い薬包紙。
「姫様、お薬はきちんとお飲み下さい」
「え? あ……はい」
「いつもそうお返事して下さるのに、飲まずに置かれて…。結核に効くお薬はこれだけなんですからね」
「け…っ」
(結核?!)
侍女の言葉に、律は目を丸くする。
律が驚くのも無理はない。現代では治療法も見つかり、大半は助かる病気なのだが、昔は不治の病として恐れられていたのである。
「蒼さんは?! 知ってるんですか?!」
「は? 姫様が私共に口止めなされたではございませんか」
(姫様が結核? 蒼さんは知らない?)
律は呆然とした。
姫は──奏は死に逝く運命にある。蒼はそれを知らない。
(私はどうすればいい?)
姫の気持ちも分かる。が、蒼の事を思うと、言わずにはいられない。
またまた律は途方に暮れるのだった。
「………」
「旦那様は災いを恐れているのです。ですから、姫が年頃になられた今、私と姫を離そうとなさっている」
「そんな!」
話し終えた蒼はとてもつらそうだった。
愛する人と離れなければならない苦しみ。蒼は必死でそれに耐えている。
律にはそれがとても痛々しくてならなかった。
日が暮れ、夜がやって来た。
部屋は薄暗い。蝋燭一つだけの灯り。
蒼は別室で食事を取ると言い、律は部屋で一人。
「姫様、お食事でございます」
女性の声に一瞬身構えたが、すぐに応えて女性が入って来るのを待った。
襖が開き、一人の女性が食事を持って入って来た。そして律の前に置く。
まず律の目が行ったのは、ご飯や魚などではなかった。
膳の片隅にある、白い薬包紙。
「姫様、お薬はきちんとお飲み下さい」
「え? あ……はい」
「いつもそうお返事して下さるのに、飲まずに置かれて…。結核に効くお薬はこれだけなんですからね」
「け…っ」
(結核?!)
侍女の言葉に、律は目を丸くする。
律が驚くのも無理はない。現代では治療法も見つかり、大半は助かる病気なのだが、昔は不治の病として恐れられていたのである。
「蒼さんは?! 知ってるんですか?!」
「は? 姫様が私共に口止めなされたではございませんか」
(姫様が結核? 蒼さんは知らない?)
律は呆然とした。
姫は──奏は死に逝く運命にある。蒼はそれを知らない。
(私はどうすればいい?)
姫の気持ちも分かる。が、蒼の事を思うと、言わずにはいられない。
またまた律は途方に暮れるのだった。


