空 × 空 -secret-

「蒼さんと姫様は、何年の付き合いになるんですか?」

「十年ほど前から、巫女である姫に仕えております」


 背筋をぴっと伸ばし、気を抜く事ない蒼。


「恋仲ではないんですか?」


 何となく恐縮しながら、律は尋ねる。

 尋ねてから十数秒、沈黙が流れた。その沈黙の中で、律は訊かなければ良かったと後悔した。

 一応、訊こうかどうか迷っていた事なのだ。


「いいえ、違います」


 蒼は静かに否定した。


「姫と私とでは、身分が違います」


 その答えに、律は感づいた。


「それでも好きなんですね?」


 身分という大きな壁で隔てられていても、人の心は誰がどうこう出来るものではない。自然的なものだ。


「何故、そう思われるのです?」


 少しも動じる事なく、蒼は逆に問い返す。


「それは……行動というか、動作というか」


 首を傾げる蒼に、律は苦し紛れに答える。


「相模と同じなんです! 私を想ってくれてるっていうのが伝わって来るんです。日々のさりげない動作の中で。蒼さんも彼と似ていて……って何だか訳が分からなくなって来た」


 一生懸命説明する律の姿が奏と被り、蒼は苦笑する。


「貴女も姫と似てますよ。その一生懸命な所」

「え?」

「律様のおっしゃる通りです。私は…、姫を愛しています」

「伝えないんですか」


 蒼は答えず、にっこりと笑った。律はその笑みに寂しさを見つける。


「私は明日、この屋敷を出る事になっています」

「え?!」

「旦那様の計らいで、戦に参ります」

「どうして?!」

「気づいてらっしゃるのです、旦那様は。私の、姫に対する慕情に」

「だからって…」

「この街を守るのは、陽を守る巫女である姫の生業です。ですから、代々定めてあるのです。陽を守る巫女は決して恋はしてはいけない、と」


 確かに、巫女は神に仕える身。

 卑弥呼も愛する男性と結ばれなかった。他の事に気を取られては神の声が聴けぬと。


「巫女が男性を愛するようになれば、霊力は衰え、街に災いが降りかかると云われています」

「迷信では?」