空 × 空 -secret-

「消ゴム。間違った字を消すヤツ」

「便利ねー。『けいこうとう』といい、『こくばん』といい、『しゃーぺん』といい」

「はぁ」


 天野奏と名乗る人物は実に好奇心旺盛で、相手にするのは非常に疲れる。

 律の方が物凄く楽だ。奏は律と対照的すぎる。


「もう少し落ち着けないのか、お前は。真空はもっと落ち着きのある奴だ」

「まぁ、失礼な殿方ね。蒼の写し身にしては随分と失礼極まりないわ」

「はぁ」


 今はもう、ひたすら溜め息だ。

 学校は無事に終わった。今日は運良く(空にしては悪く)部活は休みなのでこちらの心配もしなくていい。

 問題は自宅だ。こんな状態で帰らせるわけにはいかない。

 となると、やはり、相模家にお泊まりだ。

 相模家も相模家で問題はいろいろとあるが、事情を知っている空がいるのといないのでは大分違うだろう。


「はぁ」


 またまた大きく溜め息を吐くと、視線を、雲行が怪しくなって来た空に向け直した。

 奏と入れ替わり、平安時代にいるであろう律を想う。

 怖がりで泣き虫で寂しがり屋な律の事だから、今頃ここの事を想っているのではないか。

 まるで娘をよその家に嫁に出した父親のような心境だ。


「あら、真空殿は独りではないはずよ。蒼がいるもの」


 まるで空の心を読んだように奏が言う。半ば驚きながらも、奏の言葉に空は一先ず安堵した。


(早く戻って来いよ)


 姿の見えない律に、頼み込むように心中で呟く。

 もちろん、奏の世話が大変だからという安易な理由ではない。

 ただ、戻って来て欲しい。

 あのいつもの太陽のような向日葵のような笑顔で「ただいま」と言って欲しい。その一心なのだ。

 空もまた、いつ戻って来るのか分からない不安と恐怖感にかられるのだった。










 平安時代での生活も、半日が経って妙に慣れて来た。

 分からない事だらけだが、ピンチの時は蒼がうまく助けてくれる。それで何とかやっている。

 夕暮れ時、縁側に並んで座り、庭を眺める律と蒼。

 沈黙を割くように、律は蒼に問いかける。