空 × 空 -secret-

「姫は私に対してそんなビクビクしながら話しません。それに、不思議な事には慣れています。何が起きても否定は致しません」

「不思議な事には慣れてる、って」

「姫は陰陽家系の長姫であり、巫女であらせられますから」

「巫女?」

「陽を守る巫女──街の安泰を守る者の事です」


 そうか、陰陽家系であり、巫女であるならこの程度の事はそう不思議ではないのか。律は蒼の言葉に納得した。


「あの、その姫様はどこへ行ってしまったんでしょう? 私が追い出してしまったんでしょうか」


 不安そうに尋ねる律に、蒼は優しく微笑む。


(わゎ、相模そっくりっ!)


「大丈夫ですよ。姫は恐らく、後の世の貴女の体に入っています」

「それって、まさか」

「はい。入れ替わったという事です」

「どうやって戻れば…?」

「残念ですが、私はその術を心得ておりません。恐らく、姫も」


 ──絶望的だ。

 律は途方に暮れた。

 いつ戻れるか分からない。もしかすると、一生このままかもしれない。

 ぐるぐると悪い末路ばかりが巡る。

 パニックに陥っているのが分かったのか、蒼は律の両肩に優しく手を置くと、低く温かな声音で諭すように言った。


「大丈夫です。必ず戻れます。ですから、どうか安心なさって下さい」

「……はい」


 空に似た笑顔。それが心に染み渡り、安心感に包まれる。何故か温かな気持ちになる。

 律はこの感覚をよく知っていた。いつも空が与えてくれるものだ。

 蒼は空の先祖に当たるのだろう、律はそう思わずにはいられなかった。


(相模、何してるのかな)


 襖が開き、縁側から青い空を見上げながら、何気なく思った。











(ん? 今、呼ばれた気が……)


 空は窓から青い空を見上げる。

 そのまま見入っていると、横から、つつかれた。溜め息を吐きながら、つついて来た人物に向ける。


「これは何?」


 奏鳴はあどけない表情で、4センチ程度の白い物体を手に尋ねる。