その微笑みは本当にかすかなものでしたが、それを見たら王宮にいる誰もが目を疑うことでした。
サムールは王宮ではハルルクに次いで、若手随一(ズイイツ)と呼ばれるほど仕事ができる有能な男として有名です。
そこでついたあだ名が
”人形”
でした。
人形のように、そつのない完璧さを誇るが、感情が表に出ない冷たい男と。
だからこそ、サムールを知る人ならばこのことは、天地がひっくり返るほど驚くべきことなのです。
サムールもかすかに笑う自分自身と、同時に、このため息や疲れが、イラつくほど”迷惑な”ものではないと自分で分かっていました。
アリュエインは変わり者ではあるが、とても清い心をもつ人だということも、この旅路で理解できたからでした。
(アリュエイン様は、何に対しても素直に真っすぐで本当に子供のような方だ。でも、きちんと場を考えと動く慎重さも持っている。)
サムールは、カシェルク領でのアリュエインを惜しんでいた人達の気持ちを少しだけわかりました。
(本当に良い人だ。…変わったところはあるが、この方なら……あの女嫌いの王子も変われるかもしれない…。)
サムールが、そんな淡い期待を抱いている間もアリュエインもシャナも馬車から見える景色を楽しんでいました。
そして、サムールはその姿を見て、どこか穏やかな気持ちでいました。
(これは…五人の妃候補たちが楽しみだ。)
そして、
「アリュエイン様、シャナ嬢、あちらに見えるのが王宮です。」
「「わー……。」」
ついに、アリュエイン一行はアルファティア王国の中心である”サンドラ王宮”に到着したのです。
