王子様のお妃候補?


それから、王宮までの旅はずっとカシェルク領の城とその城下の世界しか知らなかったアリュエインやシャナにとって、新鮮な驚きに満ち溢(アフ)れたものでした。


「なぁ!あそこにあるデカイ建物は何て言うんだ??」


「あそこは、美術館といって、様々な各地の美しい銅像や絵画が展示されている所です。」


「あそこの子供が持ってるフワフワしたのは何だ!?」


「あれは、綿菓子というお菓子です。」


「どんな味がするんだ!?」


「…それは、…わたくしも食べたことはありませんから分かりませんが…大変、甘くとろけるようなものだと聞いています。」


「すごい!!シャナ、王宮について時間ができたら食べに行こうよ!!」


「そうですね!!」


キャッキャッと騒ぐ田舎者の女二人に、サムールは疲れ切ったように窓から見える景色を眺めています。
初めこそは、
「遊びに行くのではありませんよ!」
と注意していましたが、あまりに楽しみ喜ぶ姿や言ってもきかないのでサムールはもう注意するのを諦めていました。


(女というのは…これほどパワフルなものなのか……?)


よく王宮にいるサムールが相手にしていた女たちは貴族にしろ侍女にしろ、どこか気取っている大人でしとやかな女性ばかりでした。
しかし、二人はそんな女性とは大変掛け離れていました。
気取ることもせず、目の前にあることに新鮮に興味を示し楽しむ姿は、まるで子供のようでもありました。
特にアリュエインがそうで、サムールもアリュエインの貴族の女性らしからぬ変わり者だと、この旅路でよく理解しました。


(アリュエイン様が妃候補か……。うーん、この破天荒ぶりは王様たちも予測はしていないだろうな…。)


一人しみじみと、刻々と近づいている王宮にいる王様や自分の主であるハルルク、そして王子様のことを考え、ため息をつきました。


「どうしたの?どこか具合悪い?疲れたならちょっと休む?」


ため息をはくサムールをアリュエインが心配そうに声をかけました。


「いえ、大丈夫ですよ。」


「そう?それならいいんだけどさ、辛くなったらいいなよ?」


にかっと笑うアリュエインにサムールも小さく微笑みました。