王子様のお妃候補?


ーカシェルク領ー


「父様、ミシェラン兄様、フォルトマ兄様、ナターシャ義姉様、シェル。行ってきます!」


カシェルク城前で、元気に頭を下げるのは、いつもより分厚いパンツにコートを羽織るアリュエインで、横にはシャナ、そしてサムールがいました。

今日はついにアリュエインが王宮へ旅立つ日でした。
見送るのは、父であるファルマー、長兄のミシェランとその妻のナターシャ、そして二人の息子であるシェムル、三男のフォルトマ、あとは城に勤める兵士や侍女たちです。
皆、アリュエインが旅立つのが寂しいのか少々涙ぐんでいました。


「…っアリィ〜…!!ちゃんと手紙を書くんだよぉ!王様には粗相のないようにねぇー…!グスン。」


「分かってるよ、父様。僕、できるだけ手紙書くからさ。」


そうアリュエインが言うと、ファルマーはずっと持っていたハンカチで思いきり鼻をチーン!とかみました。
この旅立ちの日までずっと自室で泣き腫らしていたのか瞳が赤く充血しています。

その姿からは”温厚でしかし冷静な領主”と噂のファルマーを想像できないほどです。


(父様…鼻水たれてるよ…。)


アリュエインが父から目を離すと何故か皆も父ほどではなくても涙ぐんでいました。


「ど、どうしたの!?」


「わたくしのアリーが…!王子なんかにこれから何ヶ月…いえ、一生独占されるなんて嫌ー!」


そう言うが早くもナターシャがミシェランの胸の中でメソメソしていました。
そんな妻の頭をミシェランは優しく撫でています。
二人は有名なおしどり夫婦でもありました。


「泣くな、ナーシャ。私たちは温かくアリーの旅立ちを見てやらないといけない。」


「でも、ミシェル…。」


「大丈夫。これは仮の候補だからね。”一生”独占されるとは決まっていない。」


「そうですよ、義姉上。」


ミシェランとフォルトマの慰めにナターシャは、スンスン鼻をならしながらアリュエインを見つめました。

「ナターシャ義姉様、兄様たちの言う通りで僕は仮の候補者なだけだよ。僕はのんびり王宮見学でもして帰ってくるよ。土産話を楽しみにしていてね?」

「…クスン、ええ。分かったわ、約束よアリー。」

「うん。」