苦い顔をするシークラントを王様は気遣うように見遣ります。しかし、それを押し殺して王様としてシークラントに厳しい視線を向けました。
「シークラント。とにかく、婚姻は王子であるそなたにとっては避けては通れぬ道だ。……王子として、そのことを自覚し割り切ってほしい。」
「…………わかりました。」
そのままシークラントは一礼して部屋を出ていこうとしました。
「シーク。」
「…何ですか。」
「近々、そなたの妃候補者たちが城へ参る。……失礼のないように。」
すると、シークラントはいつも社交界で見せる”王子”の笑顔で言いました。
「…ええ。失礼のないようにはしますよ。彼女たちが帰るまでは。」
その笑顔はよく娘たちから、どんな宝石よりも輝いていると評判でしたが、それはとても冷え冷えと凍てついた光をしていました。
今度こそシークラントは一礼をして部屋を颯爽と出ていきました。
閉まったドアを見て王様は小さく溜め息をつきました。
「あれは…相当重傷のように見えたが……。」
「そのようですね。」
淡々としたハルルクに王様は更に溜め息を深くします。
「今回の婚約者決めは…シークの女嫌いを少しでも治すのも目的ではあるが、……失敗にならんといいな。」
「一か八かの賭け…ですね。」
意味深に言いながら、ふふふ。と笑うハルルクを王様はジトーと睨みます。
(ハルルクめ…楽しんでおるな。全く…こいつは仕事の腕はいいが、いかんせん性格に難がある…。)
「さ、王様。仕事の続きをしますよ。」
どんどん書簡を机にのせていくハルルクに、怨めしげな目を向けたあと、王様は渋々ペンを握りました。
スラスラとペンを動かしながら王様はこっそり祈りました。
(良い妃候補が現れるといいのだがな…。)
