「悠夾は……私の弟です」
椅子に座り、コーヒーマグを両手で持ち、落ち着きを取り戻した洸流が語り始める。
「弟? しかし家族は……」
「はい。いません。
悠夾は……生まれる前に死んだんです。母の胎内で。
デルハウスト自爆の直前に、両親から電話があって……その時、初めて知りました。母が妊娠していたことは知っていたのですが……男の子だった、悠夾と名づける、と」
くすり、と、哀しげな微笑みを浮べる。
「……遺言でした」
「……で、あのコーレックの少年が、その悠夾だと?」
何かを思い出しているようなミルドレインの言葉に頷き、
「そんな気がするんです。勘だけですけど。
あれは……悠夾です。そんなこと、有り得ないのは分かっていますが」
「……そういうこともない」
ティードリオスが洩らした呟きに、不思議そうに顔を上げる。
「洸流……悪いが、お前の自宅を調べさせてもらえないか?」
「……この前ご覧の通り、何もありませんが?」
「いや、実家だ。屋敷は無人だそうだが……残ってはいるんだろう?」
「はい。それは勿論、構いませんが……」
「そうか。ありがとう。それから……弟のことは、深く考えるな」
そう言って、彼女の肩を叩いたが、無論、そんな簡単なことではないことは分かっていた。
「……あの時撃てと命じたのは、私だ」
それ以外。何と言えばいいのか、分からなかった。
そして、後日行われたホーレスト子爵邸の捜索で、蛇と槍が意匠化された紋章の刻まれた、古ぼけたレリーフが発見された。誰に知られることもなく、物置の隅に放置されていたものであったが、ティードリオスの憶測を裏付けるには、充分だった。
◇◆◇◆◇
椅子に座り、コーヒーマグを両手で持ち、落ち着きを取り戻した洸流が語り始める。
「弟? しかし家族は……」
「はい。いません。
悠夾は……生まれる前に死んだんです。母の胎内で。
デルハウスト自爆の直前に、両親から電話があって……その時、初めて知りました。母が妊娠していたことは知っていたのですが……男の子だった、悠夾と名づける、と」
くすり、と、哀しげな微笑みを浮べる。
「……遺言でした」
「……で、あのコーレックの少年が、その悠夾だと?」
何かを思い出しているようなミルドレインの言葉に頷き、
「そんな気がするんです。勘だけですけど。
あれは……悠夾です。そんなこと、有り得ないのは分かっていますが」
「……そういうこともない」
ティードリオスが洩らした呟きに、不思議そうに顔を上げる。
「洸流……悪いが、お前の自宅を調べさせてもらえないか?」
「……この前ご覧の通り、何もありませんが?」
「いや、実家だ。屋敷は無人だそうだが……残ってはいるんだろう?」
「はい。それは勿論、構いませんが……」
「そうか。ありがとう。それから……弟のことは、深く考えるな」
そう言って、彼女の肩を叩いたが、無論、そんな簡単なことではないことは分かっていた。
「……あの時撃てと命じたのは、私だ」
それ以外。何と言えばいいのか、分からなかった。
そして、後日行われたホーレスト子爵邸の捜索で、蛇と槍が意匠化された紋章の刻まれた、古ぼけたレリーフが発見された。誰に知られることもなく、物置の隅に放置されていたものであったが、ティードリオスの憶測を裏付けるには、充分だった。
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