凶宴の月






 「お、おまえっ。牙王ヴァンダインかっ?!」
「いかにもその通り」
「なんで地上界(こんなところ)に死神将(ししんしょう)がいるんだ?!」
下級悪魔の悲鳴は、鳴き声にも似ていた。
 「ちょーっとオイタが過ぎたんだよね、おまえさんたちの」
「なにぃ?」
「我が主は過ぎた混乱を望まない。そのためにオレが遣わされたのさ」
建物の上空、優雅に浮かぶ青年はうっすらと笑った。
 「牙王ヴァンダインの名において、お前さんを制裁させてもらうよ。運が悪かったと諦めな」
整った顔立ちに、冷酷な微笑が浮かぶ。青年は持っていた大鎌を振り上げた。
 「ちょっと待て、ヴァン」
青年より少し下がった場所に、一人の少年が立っていた。手入れがされた片手用の剣を腰に差し、手には小さな宝石を持っていた。