思い出した。



「競争も大事だけど、調子が悪い時は、一度立ち止まって自分に向き合うことの方が大事だよ」




吉野くんに言った言葉。



それはコンクールの後に、先生に言われた言葉だった。




調子が悪い時に無理やり突き進んでも上手くいかない。

一度、調子が悪い自分を受け入れ、それに合わせてゆっくり進む。

周りとの競争よりも、自分を知ることの方が大事だと、先生は教えてくれた。




私が言ったあの言葉が吉野くんの心に残っていたんだ。

見ず知らずの保健委員に言われた言葉を素直に聞けるなんて、吉野くんはいい人だ。


こんなにいい人に、あんな悲しげな顔をさせてしまったことが申し訳なかった。




私はヴァイオリンの練習に一層力を入れようと思った。

それが恋をしない1番の理由だったから。