帰り道、私は吉野くんに言ったという一言を思い出そうとした。




あの後、吉野くんは穏やかに、でも悲しみを堪えるようにして

「せめて友達にはなってくれよ」

と言い残して屋上を後にした。




吉野くんはやっぱりいい人だと思いながら、もう一度、空を見上げてから私も屋上を出た。






家に帰ってきて、ヴァイオリンのケースを開ける。



確か、ヴァイオリンのコンクールの前。


前の日までできていたことが、その日はちっともできない。

同じ教室の子達がどんどん上達していくのに、私は出来が悪い。

一生懸命練習しても空回りして先生に怒られる。


大好きなヴァイオリン。

泣きながら練習していた。


コンクールでは大失敗をした。