「ううん、大丈夫だよ」

と答えた。



「多分、井上さんは俺のことなんて全然知らないよね」



確かに新学期が始まって１週間が経っていたが、私はまだクラス全員の名前は覚えきれなかった。


工藤先生はたった３回の授業で私のクラスの生徒も全員覚えていたというのに。



「俺、吉野慶一っていうんだ」



その名前に聞き覚えがあった。


自己紹介冊子にサッカーが好きだと書かれていたのを思い出して

「確かサッカー部だったよね？」

と尋ねた。


「え、井上さん、俺のこと知ってた？なんか嬉しい」




ただ自己紹介冊子を作っていた時、最後のページで何度も見たから記憶に残っていただけ。


吉野くんは何かを勘違いしたようだったが、なんだか訂正するのもかわいそうに思えた私は何も言わずにほほ笑んだ。



きっと単純で素直ないい人なんだろうな。