「担任の武藤です。宜しく」
突然の事だったもんで、ろくに挨拶もできなくてすまんね、
そう言って差し出された手を無言で握りかえした。肉厚で硬い手。
周りは次第にザワザワと騒がしくなり始め、体育袋らしきものを教室の後ろにある縦長のロッカーの中から取り出すと、みんな教室からゾロゾロと出て行く。
「東堂、次、体育だよ」
千都瀬がにこやかに懐っこい笑顔で言うと、あたしのらしいロッカーからみんなのそれとは違う、真新しい袋を慣れた動作で取り出し、あたしにくれた。
「あ、サンキュー」
チラと一瞥すれば、教室内は、武藤と千都瀬とあたし、それになぜか黒瀬と倉本しかいなくなっていた。
(…コイツらいつめん?)
「なぁー、たけちゃん、今日体育何すんの?」
「私は体育の教員じゃないからちょっとわからないな」
(ぶふっ、)
「そんな真面目に応えなくていいよ、適当な倉本が悪いから」
「はっはっは」
(なんて呑気な笑い方だ)
「……じゃあお前わかんの?」
(倉本若干スネてんじゃん)
「んー、確か短距離だよ」
さすが千都瀬、よかった、一人くらいまともな奴が身近にいて
と心底思っていたら、武藤はそそくさと職員室に戻って行った。


