………ビクッ
「んぁ」
ずる、と垂れかけてたヨダレを啜りながら顔を上げる。
「ひゃははは!!!痙攣した!まじレアなもん見たわ~!ひひゃひゃひゃ!!!」
「あるある!」
「………」
寝起きすぎて頭が回らなくて、吠える所か倉本の発言の意味を理解することも、千都瀬がキャッキャとはしゃいでることすらよくわからずに視線をさ迷わせる。
と、
後ろ手に教室のドアを閉める、丁度今来たんだろう教師らしき男と視線がカチ合った。
いかにも温厚そうな、眼鏡で50代くらいのおじさん。
「……東堂梓?」
「………」
寝ぼけ眼で数秒動かずにいると教師はゆっくりこっちに来た。
顔だけ机から上げた体勢だったあたしも、ゆっくり上体を起こして上に伸びをした。
「おはよう、今来たのか?」
随分、笑顔の暖かい男だ。
笑うことに慣れた、満たされた人間にしか浮かべることのできない笑み。
あたしはコイツのとろい動作とか優しい声色とか、奥から溢れでたような笑顔とか、偽善者のようでそう感じさせないデキた人間性みたいなのが、
どうしようもなく、嫌いだ、と思った。


