「なんで一言いわずに帰ったんだ?」
しれっという顔が無性にムカツク。
「あっ、みんなにゴメンっていわなきゃ」
クラスの誰にも断らなかったことを、いまになって思いだした。
メールを打とうと思って、携帯をさがす。
……あれ?
唾液つき携帯は、まだ恭兄の手に囚われたままだった。
あたしは、きつく睨みつけた。
「返してよ」
恭兄のまえまで歩くと、携帯に手を伸ばした。
恭兄は持っている手を、ひょいっと高く、天井に向けた。
身長の高い恭兄。
平均身長より低いあたし。
……届くはずないでしょ!!!!!
手をめいいっぱい伸ばしても、かすることなくはるか向こうに携帯があった。

