「詠葉」
「……えっ?」
耳元に聴こえたのは、聴き慣れた低い声。
隣のユウちゃんの声でも、その隣の一樹や大地でもない。
甘くて、意地悪で、それでも優しい、ダイスキな声。
「きょ、にぃ…?」
あたしはユウちゃんたちにバレないように、ゆっくり顔を向けた。
ショーに釘づけなみんなが、気づくはずもなかった。
隣にいるのは、まぎれもなく、あたしのダイスキな恭兄。
「どうしてここに…っ?」
水族館、キライっていったじゃん。
恭兄はサングラスを少しずらして、視線をあわせた。
「ヒマだったし」
ヒマだからって、わざわざ人混みのなかくるの?
「一人で……?」
あたしの疑問に、悪いかよ、って不機嫌そうに答えられた。

