儚い夜の唄



本格的に彼を好きになったのは、きっとこの電話を受けたからでした。




「今年もキャンプやるよ〜!もちろん葵も強制参加だからっ」

高校2年の夏はあっという間だ。部活もろくにしないでバイト三昧…私はいつにもなく暇を持て余していた。
友達と遊園地に行こうだとか、東京に行こうだとか…様々な計画も口先だけで終わりを告げそうな夏休みの中間。
そんなとき、従兄弟グループに設定していたお気に入りの着信音が鳴った。

3コールで出るのが私の中のルール、素早く携帯を取り出すと聞こえてきた聞き慣れた声に、柄にもなく笑みを浮かべた。


「…え〜真夏だよ!しかもどーせまた海でしょ?焼ける。却下」

「ふーん、来ないんだ。…唯斗来るのに」


唯斗と聞いた途端、自分でも分かる位テンションが急上昇した。
多分、電話越しにいる同じ苗字の男はせせら笑っているに違いない。

「え!い、行く、行かせて下さい!!」

「素直でよろしい。日程は後でまた連絡するから」

「りょーかい!」

「…厳禁な奴」


厳禁とはなんだよ!
私だって必死なの。と喉まで出かけた言葉を飲み込んだ。

言ったらからかわれるのが落ちだわ。


「じゃ、そーゆー事で…」
「待ってよ佑助!」

「ん?」

「なるべく早くね!」


「…………了解」



佑助の苦笑いが見えた気がした。