「バスケ優勝したみたいですよ」
時刻は、四時を少し過ぎた頃。
「サッカーも準優勝で、総合で私達のクラス、三位だったんです」
球技会も無事終了し、表彰式も片付けも終えた放課後、日頃の習慣からかふらっと保健室に足が向いてしまった私は、何をするでもなく、窓から外の景色を眺めていた。
「三年生にとっては最後の行事ですからね、みんな喜んでましたよ。これからは、勉強一色になるんでしょうね」
此処には、グラウンドの掛け声も体育館のボールの音も届かない。風がそよぐ音だけが、静寂に紛れ込んで微かな音を奏でている。
「……お前」
どうにも、センチメンタルな気分が抜けきれない。黄色い銀杏の葉や真っ赤な紅葉、揺れるピンクの秋桜。景色はこんなにも色付いているのに、どうしてこんな気分になるのだろう。気怠いというか覇気がないというか、これではまるで誰かのようだ。
「今日はもう帰れ」
今は先生の言葉に突っかかるのも億劫で、だからと言って従うというのも気が進まない話だった。
「……今帰っても一人なんですよ」
こういう時は、出来れば一人で居たくないものだ。一人で居たらきっと鬱になってしまう。……そんな簡単に鬱になるはずないと分かっているけれど、そんな風に考えてしまうのは、やっぱり普通じゃないということだろう。思考が麻痺してるみたいに、頭が鈍い。疲れているのかもしれない。今日は色々ありすぎた。
「……少し、ベッドを借りてもいいですか。一時間経ったら帰りますから」
窓を閉めて先生の返答も待たずにベッドに潜り込む。
横になると視界は白一色で、私は消毒液の匂いに包まれながら目を閉じた。
そうして思い出されるのは午後の事。
決勝まで勝ち進んだバスケの試合を佑美や弥代と一緒に夢中なって応援し、その甲斐あってか見事勝つことができた。
その場にいたクラスの子と涙ながらに優勝を喜んでいると、不意に声を掛けられて。人混みから抜け出して告げられたのは、告白の返事を今して欲しいという事だった。
『高瀬くん、あの、ごめんなさい……』
急な事に焦りもあったけれど、遂にというか、私も気になっていたし、逆にこの場を設けてもらって助かったというのが本音だった。
高瀬くんの表情は暗い。

