「……それからです。女とか男とか、どうでも良いと思うようになったのは。性別を意識しなくなったというんですかね。性別よりも、その人がどういう人なのかって事の方がずっと大切だって、わかりましたから」
だから、好意を持たれても今は応える事が出来ないし、私は女性としてよりも人間として一人前になりたいと思う。
話し終わっても、先生は何も言う事なくカップのなかの黒い液体を見つめていた。
しばらく、私も先生も、何も言葉を発しなかった。
先生と二人でいる時に沈黙を気まずいと感じたのは初めてだった。それは、私が自分の過去を暴露したせいかもしれない。
「……えっと、私、バスケの試合見に行ってもいいですか? 私のクラス、まだ残ってるかもしれないんで」
保健室出たさ故にそう切り出すと、先生は私を見る事もなく一言「ん」とだけ言い、それを了承と受け取った私はソファから立ち上がった。
ドアを開けた時、
「そーいや、お前がハンカチ貸したあの女子、お前にありがとうございましたって言ってたぞ」
背後から聞こえた声に、私は何も言えなくなってしまって、ひたすら前を向いて保健室を出て行った。

