恋よりも、



私が言うと、頭を上げるリコちゃん。その目が無駄に輝いて見えるのは気のせいだろう。

「はい。あの子には、きちんと皆で謝ります。もうしません」

はっきりと言い切るリコちゃんに、先生は静かに言う。

「分かった」

納得を示すはずのその言葉に、だけど私はこれっぽっちも安心出来なかった。先生の目が、鋭くリコちゃんを捉えていたからだ。

「俺は別に、餓鬼の喧嘩に興味ねえし、口出しするつもりもない。喧嘩がしたいなら勝手にしろ。……ただ」

そこで言葉を切って、先生は背後から私の肩に両手を乗せてぐいっとリコちゃん達に突き出し、

「次にリンチなんて下らない事した時は……分かるよな?」

そんな、私には全く訳の分からない事を言ってみせた。

でも、リコちゃん達にはしっかり意味が通じたようで、何度も首を縦に振っていた。何故か必死に。

「忘れんなよ? あぁ、あと、こいつには俺がいるから、お前は存分にその野郎を落とせ」

先生の発言に顔を真っ赤にしてコクリと頷いたリコちゃんはとても可愛かった。
またそんなリコちゃんに気を取られていた私は、先生の言った事など綺麗さっぱり忘れていた。

「お前らもう教室帰れよ。昼休みなくなんぞ」

先生が言うと、リコちゃんは最後にもう一度私達に頭を下げて他の子と一緒に去って行った。

静かになった廊下で、先生は早速と言わんばかりに悪態を吐く。

「ったく、余計な手間取らせるんじゃねえよ。お前は一人で保健室にも来られねえのか。あーくそ腹へった」

でも、今の私はそれを聞いても腹が立つ事はない。

「先生」

呼び掛けると、既に保健室に向かって歩き始めていた先生は振り向いて此方を睨む。

「ありがとうございました」

自然と笑顔になってしまうのは、先生が心配して来てくれたのだと分かるから。

ニコニコと上機嫌に笑う私を、先生は一瞬驚いたように見つめ、それからすぐに何事もなかったかのように再び前を向いて歩き出した。