「私の時は優しくしてくれたじゃないですか」
「はぁ!? 誰が何時んな事したんだよ」
「何時って……今日の午前中バレーで負けて私が泣いた時……」
「ちょっと待て! 俺は優しくした覚えはない」
「でも、私はそう感じました。だからそういう事なんです」
「勝手に勘違いすんな。自意識過剰だぞ」
「自意識過剰でも結構です。私の感受性の問題ですから」
「お前……っ」
先生が言いかけた、その時。
「あのー……」
不意に間に入ってきた、控えめな声。
はっとしてリコちゃん達の方を見れば、ぽかんと口を開けた女の子三人に、すっかり涙の止まったリコちゃんが戸惑ったように私と先生を見つめていた。
……やってしまった。
密かに後悔していると、不意に先生がリコちゃんの方を向く。
「……“リコ”ってきみ?」
リコちゃんはゆっくりと頷いた。
「さっきの女子に、原田が身代わりになってリンチくらってるって聞いたんだけど。マジなわけ?」
訊かれて、リコちゃんがびくりと肩を上げる。私は慌てて二人の間に割って入った。
「もう和解しましたから! それにリンチじゃありません。一対一の真っ当な喧嘩です」
自分で言って、喧嘩に真っ当も何もないだろうと思った。でも、とにかくただの喧嘩だと分かって欲しかった。それに、一方的にリコちゃんだけを責めるのはあまりに可哀想だ。
しかし先生は必死で主張する私には目もくれず、後ろに立つリコちゃんに無言で答えを急かした。
雰囲気で、リコちゃんが揺れているのがわかる。やがてリコちゃんは意を決したように強い目で先生を見つめ返した。
「……あたしは、個人的に先輩が嫌いでした。喧嘩もふっかけました。でも、先輩に言われて、このままじゃ駄目だなって思ったんです。先輩に当たったって、何の解決にもならないって。だから、今は先輩にお礼を言いたいです。あの、先輩……、ありがとうございました」
言い終えると同時、リコちゃんは私に向かって頭を下げた。
「リコちゃん、頭……上げて? あの、私お礼言われるような事してないから……。それに、もっと他に言わなきゃいけない人がいるはずだよ」

