恋よりも、



何だ、今の。
一瞬、胸が痛んだような……。
気のせい、だったのかもしれない。今は何ともないし。

怪訝に思うも、正体不明の痛みと付き合っている場面ではないのだ。

おどおど慌てふためく彼女達にふっと微笑む。

「うん、分かったから。だからもう、やめてね」

一件落着かな、と安心したその時。

「ちょっと待ってよ……」

何事も、そううまくはいかないみたいだ。
大人しくなった彼女達のなかでただ一人、異議を唱えたのは。

「璃子……?」

女の子の一人が彼女の名前を呼ぶ。

「あたしは、個人的に先輩に用があるんです」

彼女は、その瞳に私だけを映して、言った。

「謝って下さい」

けれど何の脈絡もなくそう言われても。

「どうしてあなたに謝る必要があるの?」

まるで分からない。
だって、彼女……リコちゃんとはバレーの試合が初対面のはずだ。少なくとも私はそうで。思い当たる節がまったくない。
本当に分からなかったからそう訊ねたのに、リコちゃんはかぁっと怒りに顔を熱くする。

「っふざけないでよ! ひとの彼氏とっておいて! 好きだったのにっ。あんたが居なければ……! 謝って。謝ってよ!」

目の前で泣き叫ぶリコちゃんを呆然と眺めていた。何となく、読めてきた。

そして私の想像を肯定するかのように今まで黙っていた女の子達が口を開く。

「……先輩、ちょっと前に二年の男に告られませんでした?」

問われて、思い当たる節があったので無言で頷く。

「そいつ、ひと月くらい前まで璃子の彼氏だったんです」

「でも急に、他に好きな人ができたからって別れ切り出されて」

「先輩にふられた後もそいつ、璃子とより戻そうとはしなくて、訊いたら、片思いでもいいって言ったんです」

「璃子はまだそいつが好きだから……多分、先輩が赦せなかったんだと……」

言い終えた女の子達は、どこか気まずそうにちらちらとリコちゃんに目をやっていた。リコちゃんが心配なのだろう。彼女たちも、ちょっと気持ちの行き場を間違っただけで、根はいい子なのかもしれない。

「分かったでしょう。だから、あたしに謝って下さい」

先ほどよりは落ち着いた、それでも怒りは治まらないといった様子のリコちゃんが、私を睨む。