「まったく、佑美ったら。弥代も弥代で、しっかり佑美を繋いでおいてよ!」
保健室へ足を進めながら、私は一人不満を吐き出した。
それは先ほどの事。お弁当を取りに教室へ戻った際、佑美と弥代を問い詰めた。どうしてお弁当を保健室で食べる許可をしたのか、と。そうしたら、佑美はこう言ったのだ。
『だって香月と加賀先生夫婦じゃん。夫婦が一緒にご飯食べるのは当たり前でしょ』
訳が分からないと詰め寄る私に、更に一言。
『大丈夫! 加賀先生にも言っておいたから。香月をお願いしますって』
はは、と笑う佑美に、私は怒りをぶちまけた。
『ちょっと佑美、先生に何言ってるのよ! お願いしますって何? 余計な事言わないでよ!』
『でも先生も言ってたよ。ね、弥代?』
『そうね。確か“おー任せとけ”って』
『なっ!?』
この人達はひとの居ない所で……本っ当に!
『あたし加賀先生はいいと思うよ? 大人だし』
『うん、香月のこときっと大事にしてくれると思うわ』
二人ともうんうん頷いている。また笑顔なのが腹立たしい。
『……もういいから、保健室行って来る』
いたたまれなくなって私は教室を出たのだった。
思い出して、溜息を漏らす。
佑美も弥代も、加賀先生まで、みんなしてひとで遊びすぎだ。
からかうなら他の人にしてもらいたい。私に冗談が通じないのはみんな知っているはずなのに。
なんだかなあ。私は複雑な心境のまま廊下を突き進む。
そして階段前を通った時だった。
人の声らしきものを耳が捉えた。
何だろう、と好奇心に身を任せて階段を覗き込む。すると、
「てめぇふざけんなよ!」
「誰のせいで負けたと思ってんだよ!」
「――っ」
「黙ってないで何とか言えよ!」
これは、世に言う集団リンチというものだろうか。
今、私の目の前では一人の女の子が階段下の壁を背に、四人の女の子に囲まれて暴言を浴びせられている。
しかも、取り囲んでる女の子の一人は、ミニスカートにも拘わらず足を上げて女の子の横の壁を蹴っていた。下着が見えそうだ。
「……ひっ……っく」
「泣いてんじゃねーよ!」
「……ごめ、なさっ……」
「まじうざい! ちょっと璃子どうする?」

