恋よりも、



顔を見られたくなくて俯く。
今は、話したい気分じゃない。
なのに先生は、

「もうすぐ昼だろ。お前、保健室で飯食えよ」

そう言って私の頭に手を乗せて、ぽんぽんと叩いてくる。

そんな風に優しくされたら。

「なんでですかっ。私、お昼は佑美達と」

「お前の友達にはちゃんと許可とってある。さっき聞いてきた」

「なっ、先生は勝手すぎますっ」

「あーはいはい。そーですね」

「ってゆうか、何で先生が此処にいるんですか? 保健室はどうしたんです? まさか……。ついに職務放棄に至りましたね」

「コラ、せめて怠慢と言え。あのな、もう昼になるんだから、誰も来やしねえよ。来たとしても当番の奴がいるから平気だ」

「怠慢て……、自覚があるならサボってないで保健室に戻って下さいよ! そうやって先生はいつも人任せなんですからっ」

「あー、ったく、お前な、泣くか怒るかどっちかにしろよ……」

言葉は乱暴でも、先生が困っているのが分かった。普段から自分のペースを崩すことのない先生が、生徒一人の涙に動揺している。それがなんだか可笑しくて。

「ふふ」

「お前、本当落ち着きないな」

「そうですか? そんな事、初めて言われました」

「そうかよ……」

先生が疲れたように息を吐く。失礼だけど、それすらも今は可笑しくて。不器用に頭を撫でる手が、とても大切なもののように思えた。


「原田!」

ふと名前を呼ばれて辺りを見ると、

「高瀬くん?」

此方に近付いてくる彼がいた。

「じゃーな。昼、遅れんなよ」

先生はそう言ってもう一度頭を叩いた後、ふらふらと体育館を出て行った。
何となく、その方向を見つめていると。

「原田! 試合、お疲れ様。惜しかったな」

いつの間にか高瀬くんが隣に並んでいた。

「高瀬くん、見てたの?」

「そりゃあ、自分のクラスだし。……てか、原田あんまり悔しくない?」

「え、そんな事ないよ? ……なんで?」

悔しくないはずがない。何とも思っていないなら、泣いたりはしない。

「いや、原田笑ってたし」

ああ、そっか。
だって、あの先生に慰められたら。
どうしたって、元気が出てしまうだろう。