円心が信濃の國に入ったころは、秋も深まりを見せていた。
 紅や黄の紅葉は山一面を彩っている。円心が寺を飛び出して二年の年月が経っていた。十禅寺の周りの山々もいつもと変わらぬ秋を迎えていた。円心は落ち葉のしき積もる細道を一歩一歩踏みしめている。 円心はこの二年間、寺のことを忘れたわけではなかった。天寿和尚からかけていただいた恩の深さを思うと、何ともやりきれない気持ちにさせられることも度々だった。