「円心殿。わしらの旅はようやく終わりを迎えたようじゃの。」

「・・・」

「もう、わしがお主に授けるものはない。あとはお主次第ということじゃの。はっ、はっ、はっ。」

「私はこれからどうすればいいのです。」

「わしは阿蘇の修験道へ、ちと立ち寄っていく。お主は一度、信濃の國へ戻られるがよかろう。」

「・・・」

「これが今生の別れとなるやも知れぬが、忘れてはなるまいぞ、円心殿。お主とわしの旅はどこまでも続いていくのじゃよ。来世でも次の来世でも。はっ、はっ、はっ。」

 立ちつくしている円心を後にして、無雲は阿蘇谷へと続く道なき道を歩きだした。

「さらばじゃ、円心殿。」

 円心は無雲が見えなくなるまで、いつまでも見送っていた。