翌年。季節はすっかり夏を迎えていた。二人のあてどもない道程は、肥後の國の阿蘇路へと続いていた。雄大な阿蘇の峰々を歩いていく円心には、旅の目的すらかすんでいくようであった。

「今日はこの辺で野宿するか。」

 そこには、阿蘇の外輪山へと続く、見渡すかぎりの草原の山々があった。あたりには民家の影もない。木立すらない。火をおこす木もなかったが、幸い月夜が明るかった。日中は寝静まっていた虫たちも、草むらのそこかしこで一斉に鳴きだした。