「ふっ、ふっ、ふっ。相変わらず甘いぞ、無雲。戦乱を終わらせて何が悪い。お主は今何を見てきた。いくさに疲れきった民の安堵を見て取れなかったのか。南朝方には気の毒だがいくさに勝ち負けはつきものよ。」

「南朝方が譲位されて得をするのは誰とお思いか。結局の所将軍家に踊らされているだけではないのか、兄者。」

「その通りだ。でもそれのどこが悪い。もう天子が國を治める時代は終わった。これからは力あるものが制する時代よ。ふっ、ふっ、ふっ。」

 雨あしはいっそう速くなってきた。

「御免!」

 黒衣の行者はそう言い残して足早に二人のもとを去っていった。円心は無雲の差し出した手につかまり、よろよろと立ち上がった。