無雲と円心の二人は、沿道の人影がなくなり一行が去った後も、しばらくそこへ立ちつくしていた。円心は、遙か向こうへ見えなくなる行列の方へ手を合わせている。
 と、その時である。今、まさに見えなくなろうとしている行列の方から誰かがこちらへ歩いてくる。二人はその人物の方へ視線を向けているが、それが誰なのかに気づいて円心は思わず息をのんだ。それは忘れもしない、いつぞやの晩の黒衣の行者ではないか!頭には笠を深めにかぶり、前傾姿勢で小走りに歩く黒い姿は、だんだんとこちらへ近づいてくる。顔は見えない。だが円心は遠くからも空気を伝って発せられる妖気を確実にとらえていた。