やがて霧雨に煙る幻想的な風景の中、それらしき一行が現れた。槍持ちの武者に騎馬武者が数名。続いて宝物を納めてある黒塗りの箱を乗せた牛車。天子を乗せた御輿とそれを取り巻くように従者が十人ほど。それは、どれほど盛大な行列であろうという民衆の期待とは裏腹に、あまりにもわびしすぎる行列であった。さらによく見れば、どの顔も合戦の後のように汗と垢にまみれ、沿道の民衆の中を押し黙って過ぎて行く。御輿は白木のにわか作りで、天皇家の御印である三種の神器が納められてある箱は、牛車に揺られてぎしぎし音を立てている。その姿を見て誰も声を出すものはなかった。時折、どこそこからすすり泣く声が漏れてくる。