「!」

 禅の公案に「隻手の声」というのがある。片手で音が鳴るかというものだが、鳴るとも言えるし鳴らないとも言える。答えを得ようとすれば実に難解なのだが、答えを得ることが目的ではない。考えに考えぬいた先に、本来の悟りが得られるというものである。そう考えれば円心が求めていたものは、始めから答えなどなかったのかもしれない。

「どうじゃな。また、旅に出てはどうかな。」

「無雲殿がそうおっしゃるのなら。」

 円心は無雲の言葉を素直に受け入れることが出来た。