「そうか、来ておったのか。」

「一体何者なのですか」

「真言密教を破門になった者じゃ。そうか、来ておったか・・・」

 無雲は何か考え込んでいるようであった。その険しい表情にただならぬものを感じた円心は、それ以上のことを聞けなかった。
 円心は、無雲と朝の食膳を共にしながら次第に落ち着きを取り戻していった。朝粥の湯気がほのかに暖かい。

「ところで円心殿、行の成果はありましたかな。」

「あっ。」

 円心は昨夜の恐ろしい出来事のことで頭がいっぱいで、自分の行のことまで考えがまわらなかった。

「それがどうしても今一歩のところで心眼が開きそうで開かないのです。」

「いや、それでよい、それでよい。はっ、はっ、はっ。」

 無雲の笑い声は落胆する円心のせめてもの救いだった。