『この男は一体・・・』

 いつしか円心は奈落の底へ落ちていくような感覚に見まわれた。どこまでもどこまでも深く・・・

 
 気づいたときは朝を迎えていた。

「円心殿。円心殿。」

 旅先から帰った無雲はその場に倒れ伏していた円心を揺り起こした。はっと我にかえって辺りを見回すと、もう黒衣の行者の姿はなかった。護摩炊きの煙がわずかに立ち昇っている。円心は事の一部始終を矢継ぎ早に無雲に話した。