いよいよ行も終わりをむかえ、最後の日となった。円心はお堂で座禅を組んでいた。円心には昼も夜もなかった。あるのは心の暗闇に光るわずかな灯火だけだった。どうしても明かりの向こうにたどり着きたい・・・その一心だった。
 外もだいぶ暗くなり、火をおこさねば人の顔も分からぬくらいになった時刻のことである。お堂へ一人の行者が入ってきた。黒衣を着たその行者は、お堂の中央にある護摩炊きの壇へ進むと、火をともし始めた。お堂には円心の他にも数人の行者が出入りしている。それは別段変わったこともない光景だった。やがてその黒衣の行者は、低い声で真言を唱えだす。目の前に護摩がくべられ、炎がゆらゆらと舞い上がる。手の中で擦りあう数珠の音とその低い声は、炎の龍を踊らせているかのようである。